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2005-06-16

川窪万年筆店に行ってきました (2005/03/10)

この店を訪れたときには本当にいろいろなことがありすぎて、上手く文章にまとめることができずに 3 ヶ月ほど経ってしまった。今でも上手くまとめられるか分からないが、手元にある 8 枚のメモを元に、何とか書いてみることにする。

川窪万年筆店
(画像をクリックすると拡大します)

地図を頼りに巣鴨の駅からぶらぶらと歩いて、川窪万年筆店を訪れた。周囲の町並みから「あまり大きなお店ではなさそうだ」と予想はしていたのだが、注意していなければ見落としてしまうほど小さなお店だった。

ガラガラと引き戸を開けて中に入ると、気さくなお母さんが出迎えてくれた。『趣味の文具箱』を見て訪れた旨を告げる。最近はそういうお客さんも多いようだ。今おいてある在庫を見せてもらっていると、近所の人が子供さんの体操服を買いに来た。そういえば私の田舎でも本屋さんが体操服や上履きを売っていたっけ。地元に密着したお店のようだ。

私以外に客がいないこともあってか、お母さんは万年筆に関する話をいろいろと聞かせてくれた。そのうんちくの幅広さたるや、時間を忘れて聞き入ってしまうほどだ。昔のモンブランのポスターが壁に貼ってある。お母さんが普段使いにしている万年筆はそうとうのアンティークもののようだ。「うちは職人の家、器用貧乏だから、全然儲からない」と言ってはいたが、三代続く万年筆職人の店、そこで受け継がれる職人気質への誇りを言葉の端々から感じることができた。以下、お母さんの言葉を順不同でまとめてみる。

川窪万年筆店製の万年筆を戦前から親子三代で使い続けている人もいる。アフターケアを万全に行うので、長く使うことができる。
柳田国男や宇野千代も万年筆の修理を依頼してきた。柳田氏は郵送で万年筆を送ってきて、こちらで直して送り返した。宇野氏は晩年は鉛筆を愛用したが、それまでは万年筆を使っていた。
万年筆はコレクションとしてではなく道具として、使い込んで欲しい。
注文された万年筆は、オリジナルかどうかに関わらず、全て検品し、ペン先を「なでつけて」から(=調整してから)発送する。うちは文房具屋ではない。万年筆屋だ。
素材としてはエボナイトが最高。丈夫で長持ちするのは木製のもの。ただし水没には弱い。
ペリカンは落とすと割れる。最近のモンブランは樹脂が「甘く」、5 年くらいでヒビが入ってくる。国産ならパイロットが良い。安くて丈夫、しかも書きやすい。
1920~30 年代の万年筆のデザインは尻が平らなので、キャップを尻に差したときの収まりが良かった。尻が丸くなってからは、あまり収まりが良くなくなってしまっている。
「インク止め」式万年筆は日本の文化。日本にしかない。わざわざ香港から買い求めに来る人もいる。
手作り万年筆やオリジナルデザインのペンケースなど、最近はそのデザインを盗まれてしまっている。おかげでペンケースは値上げせざるを得なくなった。

三代目の職人である息子さん=川窪克実氏と話をしたいと、恐る恐るお願いをしてみた。嫌がられるかと思ったが、すぐに工房に電話をして、「話したいって人がいるから今から連れて行くよ」と言ってくださった。「せっかく遠くから来たんだから、話していけばいいのよ」と言いながら、工房まで歩いて連れて行ってくれた。

川窪万年筆店
(画像をクリックすると拡大します)

上の写真が工房である。お店からは徒歩で 2 分ほど。中に入ると、本で見たとおりの(当たり前だが)克実氏が出迎えてくださった。本で読んで興味があったので伺った旨を話すと、問わず語りにいろいろと話してくださった。これも順不同でまとめてみる。

木はオークションなどいろいろな方法で手に入れる。スネークウッド、屋久杉、黒檀、コーヒーの木、スポルテッドメープルなどなど。(原木を手にとって、一つ一つ触らせてくださった)
素材の美しさ、木の模様の美しさを最大限に引き出す工夫をいつも考えている。
お客さんの好みに合わせて木をチョイスすることも可能。重いのがよければスネークウッド、軽い(指先で書くような感触)ものならば杉、など。
月産 20 本。量産はしたくない。特にペン先の調整に時間がかかるが、丁寧にやりたい。
木だけでは変形しやすいので、エボナイトとの二層構造にしている。ネジ部などにもエボナイトを使用している。
クリップはキャップに埋め込んでもいいのだが、外せるように作っている。木を傷めないためと、お客さんの好みに応じるため。一本一本、真鍮から削りだしている。
デザイン性、収集性が重視されている最近の風潮は、ちょっと違うのではないかという気がしている。川窪万年筆店としては「原点回帰」を試みている。
金ペン先にこだわる必要もない。スチールでも十分実用に耐える。ペン先にイリジウムを使っていれば、摩耗にも強い。
アフターケアも万全にするので、一生使って欲しい。一生使うものとして考えれば、6 万-10 万円という値段は決して高くはないと思う。
以前は(川窪万年筆店がある)商店街にも活気があったが、今は空き家も多くなっている。外に出て行かないと活路が開けない。各地のペンクリニックに出たりしている。
万年筆は「世界が狭い」。
(↑克実氏はこの言葉を何度も繰り返していた。その真意は私には分かりかねる)

克実氏の一言一言には、「いいものだけを作りたい」という静かな迫力を感じた。時間を取ってくださった礼を言うと、「またいつでも遊びに来てください」と笑って見送ってくださった。

お店に戻る。川窪万年筆店オリジナルの万年筆も若干在庫があるとのことで、見せていただいた。太さも長さも素材もさまざまな万年筆が十数本、ケースの中に並んでいる。インクの吸入法もピストン式、レバーフィラー式、インク止め式とさまざまだ。その中から、スタイルが華奢で、濃い赤の漆塗りが美しいレバーフィラー式のもの(お母さん一押し)と、木製で短く、ギミックが面白いピストン式のものとを買うことにした。大振りな桐の箱に入れて、手書きの保証書と自作の取扱説明書を付けてくれた。長く使わないときは湿気から守ってくれる桐の箱で保存するのがいいとのこと。生涯保証だそうだ。

お母さんにせよ克実氏にせよ、話をすると次から次へと万年筆のうんちくが出てくる。その話の興味深さと万年筆への思いの強さに、時間の経つのを忘れてしまうほどだ。「全然儲からない」のは、売りつけようとしない姿勢にも理由の一端がある気がしないでもないが。人柄に惚れて、また足を運びたくなる店だ。いいお店はいい人が作る。この単純な事実にあらためて気づかされた。

店名:川窪万年筆店
住所:〒112-0011 東京都文京区千石2-28-7
電話:03-3941-0561
URL:http://k-pen.net/
交通:JR 巣鴨駅下車 徒歩 12 分ほど/地下鉄千石駅下車 徒歩 5 分ほど

投稿日:2005-06-16| カテゴリー:文具の旅

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